妻の失踪(ショート・ショートを書いてみた⑬)
妻の様子が変だ。夫に食べさせる気が失せたのだろう。あれだけ好きだった料理を一切しなくなった。夜になると、何やらノートに書き始める。それをしまう枕元の箱には、厳重に鍵がかかっている。夫に見られたくない秘密がぎっしりと書き記されているに違いない。
野村修也
2026.06.03
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行き先を告げずに外出することも多くなった。玄関履きのサンダルで出かけたのに、1時間以上戻って来ないこともある。夫には知られたくない相手と電話しているに違いない。妻が男性といるところを見かけたと、姉がわざわざ電話してきた。高級ホテルのラウンジだったらしいが、真実を知るのが怖くて、いまだに聞き出せないままだ。
最近、小銭をペットボトルに溜め始めた。以前は、小銭を持ちたくないと言って、なるべく電子決済にしていたのに、何を企んでいるのかが気になる。ある人からチャリティー募金を勧められたと言っているが、その人が誰なのかは教えようとしない。私は、ホテルのラウンジで密会していた男ではないかと疑っている。
1週間前のことだった。いつもより早く仕事が終わったので、妻の好きなシオンの花束とシャンパンを買って家路を急いだ。マンションのエレベータを降りようとした瞬間、妻が隣の奥さんと立ち話をしている声が聞こえた。